2026年10月27日、埼玉県越谷市の西浦遺跡で、発掘調査に従事していた50歳の女性が土壁の崩落に巻き込まれ、亡くなった。女性は地層断面の測量に向けて、掘削穴の中で土壁にビスを打ち込む作業をしていたという。

発掘調査中の土砂崩壊による死亡事故は、今回が初めてではない。厚生労働省が公開する死亡災害データベースには、1990年代から同様の事故が記録されている。

過去に何が起き、どのような危険が明らかになっていたのか。そして、事故から得られた教訓は、その後の発掘調査でどのように活用されてきたのだろうか。

本稿では、労働安全コンサルタント(土木)および一級土木施工管理技士の資格を有する立場から、過去の死亡災害を検証する。

労働安全コンサルタントは、労働安全衛生法第81条に基づき、事業場の安全について専門的な診断・指導を行う国家資格である。一級土木施工管理技士は、土木工事の施工計画、工程、品質、安全管理などに関する国家資格である。発掘調査の安全を考えるうえでは、考古学的な調査方法に加えて、掘削や地盤に関する技術的な判断が欠かせない。

越谷市西浦遺跡で発生した死亡事故

2026年10月28日付の埼玉新聞によれば、事故が発生した掘削穴は、縦約2.65メートル、横約1.75メートル、深さ約1.38メートルだった。女性は地層断面を測量するための準備作業中に土壁の崩落に巻き込まれ、腹部付近まで土砂に埋まった状態で発見された。

現場には市の文化財担当者や民間事業者など、計25人が従事していた。事故当時は休憩時間で、女性は一人で作業を続けていたと報じられている。

発掘調査では、地層の重なりや遺構の形状を記録するために、掘削面へ近づいて作業する場面がある。地層断面の清掃や測量、写真撮影などは、重機による掘削が終了した後にも行われる。

今回、注目したいのは、掘削穴の深さが約1.38メートルだったことである。土砂崩壊の危険は深さだけでは判断できない。土質、地層の状態、亀裂、含水状態、湧水などによって地山の安定性は変化する。比較的浅い掘削であっても、崩落した土砂による身体の圧迫が重大な結果につながることがある。

事故の直接原因については、掘削面の形状、地山の状態、事前点検や危険防止措置の実施状況など、今後の調査によって明らかになる部分が多い。

ただし、掘削面の近くで人が手作業を行う際の危険は、以前から死亡事故の記録に残されている。

厚生労働省のデータベースに残る4件の土砂崩壊事故

厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、1991年から2024年までの死亡災害の個別事例が公開されている。

CPSUSでは、この34年間の公開データ49,326件を対象に、「遺跡」「発掘」「埋蔵文化」「文化財」「試掘」などの語句を使って検索した。事故の発生状況を個別に確認した結果、発掘調査に関連する死亡災害として12件を抽出し、そのうち4件が土砂崩壊による事故だった。

表1 発掘調査中の土砂崩壊による死亡事故(1991~2024年の抽出結果)

発生年月掘削条件事故発生時の作業
1997年1月深さ3m、幅1.5m、長さ5.5m掘削溝内で法面を鍬で均していた
2003年12月深さ2.2m、幅2m、長さ9.6m試掘坑の壁面を手ベラで仕上げていた
2010年11月深さ2m、幅2m、長さ20m重機掘削後、じょれんやスコップで調査面を整えていた
2019年7月深さ約2.3m手掘りによる床掘りを行っていた

出典:厚生労働省「死亡災害データベース」。ファイル内IDは順に1997年76、2003年1530、2010年982、2019年439。CPSUSによる抽出・整理。

4件の事故は、異なる年代、異なる作業工程で発生している。法面の整形、壁面の仕上げ、掘削後の調査面の整形、床掘りと、作業内容は同じではない。

共通するのは、作業者が掘削面の近くで手作業を行っていたことである。

発掘調査では、地層や遺構を確認するために掘削面を露出させ、記録を取る。調査の精度を確保するために断面の形状を維持したい場合もあるが、その状態で人が安全に作業できるかは別の問題となる。

なお、今回の調査は死亡災害データベースの記述を検索したものであり、該当する語句が含まれていない事故は抽出できない。そのため、12件あるいは土砂崩壊4件という数字は、全国の発掘調査で発生した死亡災害の総数を示すものではない。

2010年の事故記録から分かること

4件の中で、事故発生時の条件と安全対策の状況が詳しく記録されているのが、2010年11月の死亡事故である。

厚生労働省の記録によれば、建設予定地で埋蔵文化財の試掘調査を行うため、幅2メートル、深さ2メートル、長さ20メートルの溝を重機で掘削した。その後、作業員がじょれんやスコップで調査面を整えていたところ、側壁の土砂約5立方メートルが崩壊した。

事故の記録には、前日の大雨によって表層の採石層が緩んでいたこと、崩壊防止措置が講じられていなかったことも記されている。

この事故は、発生年月や掘削条件が神奈川県厚木市の事故と一致している。厚木市教育委員会の2010年11月25日の会議録にも、同年11月1日に試掘調査中の土砂崩壊で作業員が亡くなった経緯が記録されている。

市の説明によると、3か所目の試掘溝で重機による掘削が終了し、写真撮影などの記録を取る前に、作業員が壁面や底面の清掃を行っていた。事故は、その清掃作業が終わる前後に発生した。

掘削が終了し、清掃や記録の工程に移っても、地山が安定しているとは限らない。特に降雨によって地盤の状態が変化した場合には、その変化を確認したうえで作業方法を判断しなければならない。

2010年の記録は、発掘調査で人が掘削面に近づく際、地山の状態と崩壊防止措置を確認することがなぜ重要なのかを具体的に示している。

死亡災害データベースに含まれない重大事故

発掘調査における土砂崩壊は、死亡災害の記録だけでは把握できない。

2023年4月18日、宮崎市大字浮田の埋蔵文化財確認調査現場で、市文化財課の職員が試掘坑内で作業中に土壁の崩落に巻き込まれた。

宮崎市の公表資料によれば、職員は生き埋めとなり、救急隊員に救出されて病院へ搬送されたが、公表時点では意識不明だった。事故後の容体や最終的な原因については、この公表資料からは確認できない。

この事故も、試掘坑の内部で作業している際に土壁が崩落した事例である。越谷市の事故と同様、掘削面に近接する作業の危険が表れている。

厚生労働省の死亡災害データベースは、死亡災害のみを収録している。今回取得した2023年分の記録を検索しても、宮崎市の事故に該当する事例は見当たらなかった。重大な負傷事故の実態を把握するには、死亡災害の記録以外の資料も確認しなければならない。

宮崎市は事故後、2023年8月9日に「宮崎市埋蔵文化財発掘調査に係る労働安全衛生に関する基準」を定めた。市が公表した同年8月の資料には、新たな基準をもとに再発防止に取り組む旨が記載されている。

過去の事故の教訓は、次の現場に届いているのか

事故原因と再発防止策が公表されているのは、土砂崩壊事故だけではない。

1997年5月には、遺跡発掘現場の写真撮影用足場が突風で倒壊し、調査員ら2人が墜落して1人が亡くなった。厚生労働省は、この事故を労働災害事例No.100280として詳しく紹介している。

同事例では、足場が軟弱な地盤に不安定な状態で設置されていたことや、メッシュシートが風圧を大きく受けたことに加え、現場責任者による安全管理が行われていなかったこと、安全衛生教育が実施されていなかったことが原因として挙げられている。

再発防止策としては、足場の設置条件を踏まえた計画、安全衛生教育の実施、所長等による定期的・随時の巡視と作業指示が示されている。発掘調査現場における安全管理の問題と具体的な対策は、すでに国の公開資料に残されているのである。

自治体においても、発掘調査の実態を踏まえた安全管理の基準が整備されてきた。

宮城県教育委員会では、2014年11月1日に「発掘調査安全衛生管理マニュアル」を策定した。現在公開されている2026年改訂版には、安全衛生管理体制、安全衛生教育、作業前の点検、掘削時の安全対策、事故発生時の対応などが定められている。

特に、掘削面の高さが2メートル未満であっても、軟弱な土質では緩やかな勾配をとるなど適切に対応することを求めている。安定勾配を確保した場合でも、湧水や長期間の開口によって壁面が崩落するおそれがあるため、亀裂や地山の状態を確認することも明記されている。

深さだけで安全性を判断できないという考え方は、発掘調査の安全管理マニュアルとして、すでに具体化されていたのである。

2019年7月には、熊本市の古町遺跡群第12次調査区で掘削面が崩壊し、作業員1人が死亡、2人が負傷した。熊本市は事故後、外部の実務経験者を含む検証委員会を設置し、発掘調査の安全衛生基準書を策定している。

1997年、2003年、2010年、2019年の土砂崩壊による死亡事故を比較すると、掘削面の近くで人が作業する際の危険が繰り返し現れている。2023年の宮崎市、2026年の越谷市でも、土壁の崩落による重大事故が発生した。

事故の直接原因がすべて同じだったわけではない。しかし、同じ種類の危険が長年にわたって存在し、重大な災害につながってきたことは、過去の記録から確認できる。

国による事故原因と対策の公表、事故前からの自治体による安全管理マニュアルの整備、事故後の検証による基準の策定など、安全管理に関する知識は蓄積されてきた。

情報が公開されていることと、それが現場の作業計画や安全教育に取り入れられていることは別である。

労働安全衛生の技術や制度は、過去に発生した事故の原因を調べ、再発防止策を積み重ねることで発展してきた。発掘調査でも、事故を検証して終わるのではなく、その教訓を次の現場でどう生かすかが問われる。

過去の事故から得られた知識は、どこまで共有され、日々の発掘調査に生かされているのか。

次回は、今回抽出した死亡災害12件が、厚生労働省の統計でどのように分類されているかを取り上げる。発掘調査という同じ業務の事故が、なぜ複数の業種に分かれて記録されているのかを検討する。


主な参考資料

執筆:岡村真由(労働安全コンサルタント・土木/一級土木施工管理技士)

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