1.立体地図から、市民が遺跡を見つける時代へ

2026年9月、NHKが「遺跡大発見時代」と題した特集を報じた。国土地理院が公開する精密な立体地図をきっかけに、専門家ではない市民が未発見の山城や古墳とみられる地形を見つけ、SNSで報告する動きが広がっている(NHK「歴史を変えるのはあなた?立体地図で”遺跡大発見時代”が到来」2026年9月12日)。

岐阜県の会社員男性は、15年にわたり山城を訪ね歩いてきた経験と立体地図を組み合わせ、複数の山城跡を発見。地元教育委員会によって正式に登録された。新潟県佐渡島でも、考古学を趣味とする男性が見つけた前方後円墳が市の調査で古墳群として確認され、当時のヤマト王権と地域との関係を考えるうえでも注目されている。地形データにAIを組み合わせ、古墳らしい痕跡を自動で検出するシステムまで登場している。同記事の中で、奈良文化財研究所の高田祐一主任研究員は、より精密な地形データが近年広く公開されるようになったことを、こうした動きの背景として指摘している。

背景にあるのは、航空レーザ測量による高精度地形データの普及だ。国土地理院は2026年7月31日、国や地方公共団体が計測した航空レーザ測量の成果をもとにした1mメッシュ標高データの提供範囲をさらに拡大したと発表した。木々に覆われて見えない地表の凹凸まで、誰でも画面上で確認できる。

2.文化財との関わり方が「見る」から「見つける」へ

これまで、多くの人にとって文化財との接点は、博物館で展示を見る、史跡を訪ねる、講座やイベントに参加するというものだった。いずれも、すでに「文化財」として認識され、価値づけられたものに触れる関わり方だ。

今回の一連の出来事は、それとは違う関わり方が現実のものになりつつあることを示している。自分で地形を読み、違和感を覚え、それが新たな発見に結びつくかもしれない。用意されたものを見る側から、自分で探そうとする側へ。文化財との距離の詰め方が、一つ増えた。

専門家の仕事が市民に取って代わられる、という話ではない。これまで「見る」ことが中心だった市民に、「見つける」という新たな関わり方が開かれたのである。

3.「発見したかもしれない」で終わらせないために

一方で、押さえておきたい点もある。

地図上で気になる地形が目に留まったとしても、それだけで遺跡だと確定するわけではない。文化財保護法96条は、土地の所有者または占有者が出土品などにより遺跡と認められるものを発見した場合の届出義務を定めている。今回のように地図上で第三者が遺跡らしい地形に気づくケースは、同条が想定する届出とは性質が異なる。

文化庁の「既存の航空レーザ測量データを用いた埋蔵文化財の把握に係る利用マニュアル」(令和7年3月31日策定)も、地形データをもとに作成した微地形表現図を判読し、現地踏査を経て、遺跡地図の作成・更新につなげる手順を示している。

だからこそ、まずは自治体が公開している遺跡地図を確認し、すでに知られている場所かどうかを調べてほしい。地権者の許可を得ずに立ち入ったり、まして掘ったりしないこと。何かに気づいたら、地域の教育委員会や文化財担当部署に伝えること。今回のNHKの記事でも、専門家や自治体からこの点が繰り返し呼びかけられていた。

4.市民からの「発見情報」を、どう受け止めるのか

森本さんの事例では、市民が見つけた情報を教育委員会が受け止め、現地確認を経て遺跡として登録する流れが機能した。

では、同じような情報が全国の自治体に寄せられた場合はどうだろう。「立体地図を見ていたら、遺跡らしい地形を見つけた」。その情報をどこに伝えればよいのか。受け取った自治体は、どのように記録し、既知の遺跡と照合し、必要性を判断して現地確認につなげるのか。確認結果を情報提供者へ返すのか。

文化庁の利用マニュアルは、航空レーザ測量データを活用して埋蔵文化財を把握するための技術的な手順を示している。一方、市民から寄せられるこうした情報をどのように受け止めるかは、技術とは別に考えておくべき運用上の課題である。「見つけるための環境」が整っていくのであれば、「見つかった情報を受け止める仕組み」についても、同時に考えておく必要があるのではないか。

今後、立体地図やAIの利用がさらに身近になれば、こうした情報が増える可能性もある。であれば、情報提供先の明示、受付時に必要な情報、記録方法、確認後の扱いなどについて、実態を把握し、必要に応じて一定の考え方を整理しておくことには意味があるのではないだろうか。

5.地域をよく知る人だから見えるものもある

専門家の数には限りがある。全国のすべての土地を、常に専門家が見て回ることはできない。

その土地に暮らす人、繰り返し山を歩く人、地域の歴史を調べ続けている人は、専門家とは違う形でその土地を見ている。今回発見に至った人たちも、思いつきで見つけたわけではなかった。岐阜県の男性は15年間山城を歩き続けてきたからこそ、立体地図の中の違和感を見逃さなかった。そうした長年の経験の蓄積が、新しい技術と結びついたのだ。

専門家が足りないから市民に代わりを務めてもらう、という話ではない。専門家の知識と、地域を日常的に見ている人の視点は、そもそも性質が違う。両者が結びついたとき、これまで見過ごされてきたものが姿を現す。

冒頭のNHKの記事の中で、高田氏自身もこう述べている。専門家や研究者の数は限られているからこそ地域の人と一緒に見つけていくことには大きな意味があり、特に自分の住む土地の歴史を知ることは、その土地への愛着にもつながる、と。地域を見る目は、専門知識を補う手段である以前に、それ自体が一つの価値なのだ。

6.発見情報を文化財行政につなぐために

立体地図やAIによって「見つける側」の環境は大きく変わり始めている。次に考えるべきなのは、その情報を「受け止める側」の仕組みではないだろうか。

まず必要なのは、自治体が市民からの遺跡に関する情報を現在どのように受け付け、確認し、記録しているのか、その実態を把握することではないだろうか。

CPSUSでは、文化財への市民参加を一過性のブームで終わらせないために、市民から寄せられる情報を文化財行政がどのように受け止めているのかにも目を向け、市民と文化財行政をつなぐ仕組みについて考えていきたい。


参考資料

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