2026年10月14日、愛知県は「美術品等共同収蔵庫整備等事業」の入札説明書等に関する質問回答を公表した。翌15日には、栃木県が美術館・図書館・文書館を一体で整備する「文化と知」の創造拠点整備運営事業の入札を公告している。いずれも、施設の整備や運営に民間の力を取り入れるPFI事業である。
愛知県の計画で特徴的なのは、新たに整備する共同収蔵庫の一部を「営業倉庫」として利用する点だ。将来の収蔵需要を見込んで確保した空間のうち、県立施設が当面使用しない部分を、第三者の作品等の有料保管に活用する。
県立美術館等の収蔵品を保存するための施設に、民間の収益事業を組み込む仕組みである。
この計画は、公費による収蔵施設の整備と、民間による保管サービスの関係を考える材料になる。また、発掘調査によって蓄積する出土品など、対象の異なる文化財の保管についても、どのような仕組みで長期的な管理を支えていくのかという問いにつながる。
本稿では、愛知県の共同収蔵庫事業を中心に、営業倉庫の位置付け、業務範囲、費用負担を確認する。
県立3施設の収蔵を支える共同収蔵庫
対象となるのは、愛知県美術館、愛知県陶磁美術館、愛知県立芸術大学の3施設である。
整備計画地は常滑市の元愛知県立常滑高校敷地。基本計画では「美術館のバックアップセンター」を目指す姿として掲げている。
美術館の活動は、展示室だけで成り立っているわけではない。展示していない作品や資料を保存し、状態を確認し、調査や修復、貸出に備える。収蔵スペースが不足すれば、既存資料の保存だけでなく、新たな作品の収集にも支障が生じる。
愛知県は、県立3施設の収蔵施設が満杯の状態に近付いていることを課題とし、共同化によるスケールメリットを活かした効率的な解決策として、新たな収蔵施設を整備する方針を示している。
施設には収蔵室のほか、修復室、撮影室、処置室、閲覧室、レクチャールームなどの機能が計画されている。単に作品を置く場所ではなく、保存や修復の活動を支え、その過程を公開する施設として位置付けられている。
ここで注意したいのは、「美術品等」という名称である。
県が公表した資料では、愛知県美術館と愛知県陶磁美術館の収蔵作品群に考古資料も含まれている。
美術館の収蔵計画だから考古資料とは関係がない、というわけではない。
ただし、今回の事業は、特定の県立3施設に必要な収蔵機能を確保するものである。自治体の文化財担当部局や埋蔵文化財センターが保管する大量の出土品を、広く受け入れるための施設として計画されているわけではない。
対象となる資料の性質や利用方法、管理主体の違いを踏まえて考える必要がある。
将来の収蔵スペースを、当面は営業倉庫として利用する
愛知県の基本計画では、今後40年間に必要となる収蔵面積を見込んでいる。
そのすべてを当初から県立3施設で使用するのではなく、事業期間中に利用しない部分を営業倉庫として活用する構成だ。
営業倉庫とは、倉庫業者が第三者から物品を預かって保管する倉庫をいう。
2026年10月14日の質問回答No.68では、収蔵室等の全体面積約5,700㎡のうち、営業倉庫の面積を原則3割程度、約1,710㎡とすることが示されている。要求水準書では、県との協議によって最大5割まで営業倉庫として使用できる。
この仕組みは、既存の民間倉庫に県の所蔵品を移すこととは異なる。
県が新設する共同収蔵庫の内部に、第三者から作品等を有料で預かるための区画を設けるものである。
要求水準書第7「付帯業務」では、県が事業者と公有財産貸付契約を結び、事業者が倉庫業法に基づく倉庫業を実施できる者に、その部分を転貸する構成が示されている。転貸を受けた者による再転貸は認められていない。
質問回答No.69では、事業者が倉庫業者として業務を実施する旨の説明もある。実際の運営主体や契約関係については、両資料の記載を踏まえ、事業者の提案と最終的な契約内容を確認する必要がある。
質問回答No.70では、営業倉庫部分で、保管に付随する荷役、梱包、輸配送準備、検品などの関連業務も実施できるとされている。
要求水準書は、事業期間終了後に営業倉庫部分を県美術館と陶磁美術館の収蔵室へ転用する想定にも言及している。
将来の県立施設の収蔵需要を先取りして建物を整備し、当面の未使用部分から保管料収入を得る仕組みである。
収蔵スペースの不足と、営業倉庫の需要は同じではない
愛知県は質問回答No.68で、全国の6〜7割の美術館・博物館に収蔵スペースの課題があることを挙げている。
2025年7月に県内の公立・私立美術館等を対象に実施したアンケートでも、7割の施設に同様の課題が確認されたという。
収蔵スペースの不足は、多くの施設に共通する問題である。
ただし、県は営業倉庫について、具体的な需要を把握しているわけではないとも説明している。
収蔵場所が不足している施設が多いことと、有料の営業倉庫を実際に利用できる施設が十分に存在することは、同じではない。
保管料を支払う予算があるか。資料の移送費を負担できるか。保存環境や出入庫の条件が適合するか。預けた後も、調査や展示に利用できるか。外部保管の利用には、こうした条件が関係する。
県立施設の収蔵需要に備えて整備する空間を、事業期間中に営業倉庫として活用することは、施設利用の一つの方法である。しかし、営業倉庫としての事業性を評価するには、収蔵スペースの不足だけでなく、実際に料金を支払って利用する需要を確認する必要がある。
営業倉庫は、倉庫業者が保管サービスを提供し、対価を得る事業である。
文化財の保存に適した施設や保管サービスを提供する民間事業者は、公共的な保存活動を支える役割も担い得る。ただし、そのサービスが利用できるかどうかは、利用者の予算や契約条件に左右される。
営業倉庫を設けることと、地域の文化財を長期的に保管するための財源や管理体制を確保することは、区別して考える必要がある。
県が支払うサービス購入料と、営業倉庫の費用負担
PFIは、民間が無償で公共施設を建設する仕組みではない。資金を調達する主体と、最終的に費用を負担する主体は、必ずしも同じではない。
愛知県の要求水準書では、設計・建設費相当額は施設引渡し時に県が一括して支払う。引渡し前にも出来形に応じた一部支払いを請求できる。
開館準備費、統括管理費、維持管理・運営費については、四半期ごとにサービス購入料を支払う構成となっている。
営業倉庫などの付帯業務にかかる費用は、契約に特段の定めがある場合を除き、原則として事業者が負担する。
事業者は保管料収入を得る一方、付帯業務から生じる収益をサービス購入料から控除し、県に還元する提案もできる。
県が支払うサービス購入料と、営業倉庫の利用者が支払う保管料は、異なる収入である。
営業倉庫から収入が得られても、それだけで共同収蔵庫の整備費や将来の維持管理費が賄えるとは限らない。
事業期間が終了し、営業倉庫を県立施設の収蔵室に転用すれば、その区画からの第三者の保管料収入はなくなる。一方、保存環境の維持や設備更新の費用は、その後も必要になる。
収蔵施設の費用負担は、建設時だけではなく、長期間にわたる運営と設備更新まで含めて考える必要がある。
事業者に任せる業務と、県に残る業務
愛知県の要求水準書では、施設・設備の維持管理、教育普及、作品運搬などが事業者の業務に含まれる。
一方、県立3施設の作品保存に関する業務のうち、学芸員の専門的知見が必要なものは、事業者の業務範囲から除かれている。
質問回答No.66では、教育普及プログラムについて、県や県立3施設の学芸員を配置する予定はないものの、専門的な意見が必要な場合には相談できると説明している。
これは教育普及プログラムに関する回答であり、施設全体で学芸員が関与しなくなることを意味するものではない。
栃木県の「文化と知」の創造拠点でも、業務基準表に県、事業者、共同、第三者という担当区分を設けている。美術館のデジタルアーカイブ登録・更新では、県が指定した資料のデータ整理やアップロードを事業者が担当する構成となっている。
同じ資料管理でも、対象の選定、現物との照合、記録の整備、データ登録、保存環境の確認など、工程は多岐にわたる。
専門的な判断を必要とする業務と、一定の手順に基づいて実施できる管理業務を整理することで、行政と民間の役割分担を具体化できる。
民間側にも、輸送、保存環境、情報管理、施設管理などの専門性がある。行政が判断する範囲を明確にしながら、民間の実務能力を活かせる事業設計が求められる。
新たな収蔵庫の整備は、どのように評価されているのか
愛知県は2026年8月6日、PFI法に基づく特定事業の選定と、その客観的評価の結果を公表している。
県は、共同収蔵庫の設計・建設・維持管理・運営を一体で実施することによって、民間のノウハウや創意工夫を活かす方針を示している。
ここでは、二つの判断を分けて考えたい。
一つは、新しい共同収蔵庫を整備するという方針。もう一つは、その施設を整備・運営する際に、PFIを採用するという判断である。
PFIによる事業実施と従来方式を比較することは、新しい収蔵庫の整備を前提とした発注方式の評価である。
それとは別に、収蔵機能を確保する手段として、新築、既存建物の改修、外部施設の利用などを比較する視点もある。
ただし、今回の共同収蔵庫には修復、撮影、閲覧、教育普及などの機能も計画されている。一般の倉庫の賃料と単純に比較することはできない。
必要な保存環境、設備、運営内容をそろえたうえで、長期的な費用と効果を比較することになる。
今回確認した基本計画及び特定事業選定の公表資料からは、民間施設の賃借や外部保管サービスの利用を含めた各選択肢について、同一条件による詳細な比較結果までは確認できなかった。これは県が比較検討をしていないと断定するものではなく、公表資料から確認できる範囲についての記述である。
収蔵機能の充実そのものの必要性と、そのための施設整備方法の妥当性は、それぞれ評価する必要がある。
美術品等の収蔵は事業化された。出土品の保管はどう位置付けるか
愛知県の共同収蔵庫は、県立3施設が所蔵する作品を長期的に保存するための事業である。対象や目的が明確になり、将来の需要を見込み、施設整備と運営の計画が具体化されている。
では、発掘調査によって増加する出土品の保管についてはどうだろうか。
1997年に文化庁の調査研究委員会がまとめた「出土品の取扱いについて(報告)」では、出土品の多くが地方公共団体の所有となり、当該団体で保存・活用されていることが示されている。
同報告は、出土品の性質や活用の可能性に応じた保管方法の合理化を求めるとともに、恒常的な保管施設の整備、適切な管理スペースの確保、専門職員による管理体制の必要性にも言及している。
さらに、出土品を区分して保管する場合には、資料の内容や数量、出土遺跡、保管場所などの情報を適切に管理することも求めている。
出土品の保管問題は、決して最近になって認識されたものではない。文化庁の報告でも、施設、管理体制、情報管理を含めた課題として整理されてきた。
ただし、出土品の保管と県立美術館等の収蔵では、資料の性質や管理方法が異なる。
美術館に必要な修復設備や公開機能を、大量の出土品を保管する施設にも一律に求める必要はない。逆に、出土品の保管では、数量の多さや調査単位での管理、台帳との照合、出入庫などが重要になる。
両者を同じ施設で保管すべきだという話ではない。
問いたいのは、どちらも将来に残すべき資料であるにもかかわらず、その保存・管理に必要な公的支援を、どのように具体的な事業として確保していくのかということである。
新しい収蔵施設の整備が必要な場合もある。しかし、すべての自治体が専用施設を新築できるわけではない。
既存施設を利用しながら管理業務を改善する方法や、外部の保管施設と専門的な管理業務を組み合わせる方法も考えられる。
収蔵施設の整備と、資料を継続的に管理する体制の確保を、必ずしも一体の事業として扱う必要はない。
文化財の保管を、施設整備だけの問題にしないために
愛知県の共同収蔵庫は、県立3施設の将来の収蔵需要に備え、新たな施設を整備し、その一部を営業倉庫として活用する計画である。
施設整備と民間事業を組み合わせた仕組みとして参考になる一方、出土品保管の問題をそのまま解決するものではない。
文化財の保管には、適切な場所を確保するだけでなく、資料の所在を把握し、記録を更新し、必要なときに調査や活用ができる状態を維持する仕事がある。その管理は、施設が完成した後も続く。
CPSUSでは、文化財の整理・保管・所在管理を、施設整備とは分けて検討できる継続的な業務として捉えている。
既存の収蔵施設や民間の保管施設を活用しながら、必要な管理機能を確保する方法もある。
公費で何を確保するのか。新しい建物なのか、保存環境なのか、管理する人員や仕組みなのか。
その整理が、将来にわたって文化財を保管する体制を考える出発点になる。
次稿では、施設を所有することを前提とせず、PFIや包括的な業務委託によって文化財の保管運営を確保する方法を検討する。
文化財の保管場所や管理方法について、お困りのことがありましたら、CPSUSへご相談ください。
参考資料
2026年10月20日確認。事業計画・募集段階の公表資料に基づくもので、運営実績を評価した記事ではない。
- 愛知県「入札説明書等に関する質問及び回答について」2026年10月14日
- 栃木県「文化と知」の創造拠点整備運営事業について、2026年10月15日入札公告
- 愛知県「美術品等共同収蔵庫整備基本計画」2025年12月、第2・第4・第5・第6
- 愛知県「入札説明書等に関する質問及び回答」PDF、No.66・68〜70
- 愛知県「要求水準書」変更版・2026年10月、第1「総則」、第7「付帯業務」本文52〜53頁
- 内閣府「Q4 PFIの仕組み」
- 栃木県・別紙9-2「業務基準表(美術館)」No.4〜6
- 愛知県「特定事業の選定について」2026年8月6日
- 文化庁「出土品の取扱いについて(報告)」1997年・概要版
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