2025年12月12日、改正建設業法がいよいよ全面施行を迎えます。 国土交通省はこの改正により、建設産業の長年の構造的課題であった「労務費のしわ寄せ」を是正し、技能者が適正な賃金を受け取れる環境をつくることを明確な目的に掲げています。

これは、建設産業の一部と見なされることの多い「文化財の発掘調査」にとっても、歴史的な転換点となり得ます。

本記事では、国土交通省の公表情報等をベースに、この新制度が文化財発掘現場に何をもたらすのか、CPSUSの視点で解説します。

1.改正の核心「標準労務費」と「基準値」

今回の改正の目玉は、国が「通常必要と認められる労務費の基準(標準労務費)」を明確化することにあります。

これまでの建設・文化財業界では、「材工共(材料費と手間賃をセットにした価格)」の慣習により、労務費の内訳が不透明になりがちでした。これが是正され、以下のルールが適用されます。

「著しく低い労務費による見積書作成および請負契約の締結を禁止」

つまり、「どの作業に、どれだけの人件費が必要か」を見える化し、それを不当に叩くことを法律で禁じる構造へとシフトします。
本改正は、建設業における働き方改革(時間外労働の罰則付き上限規制)とも密接に連動し、適正な労務費の確保を通じて、技能者の処遇改善と担い手確保を図る目的があります。

2.公表された職種、未定の職種

国交省は25職種について基準値(参考労務費)算定を進めていますが、2025年12月運用開始時点では、全職種の半数にあたる13〜14職種のみ公表という状況です。

【公表済み】 型枠、鉄筋、左官、電工、土工、橋梁、警備 ほか
【未公表】 内装、塗装、解体、板金、防水 ほか

文化財分野では、建設工事と異なる工種も多く、積算体系も統一されていないため、発注者・受注者双方に価格判断の基準が不足しています。
今回の制度改正は、文化財分野においても「適正な人件費を説明しやすい環境」を生み出す可能性があります。

「基準値がないから、安くてもいい」ではありません。 国交省は、基準値がない職種であっても「見積書への内訳明示」や「不当に低い金額の禁止」は適用されるとしています。むしろ、基準値がない職種こそ、私たち受注者側が「適正な根拠(歩掛かりや技能者の実態)」をこれまで以上に論理的に説明する力が求められることになります。

3.契約書が変わる。「コミットメント条項」の新設

制度を形骸化させないため、「建設工事標準請負契約約款」も改正され、新たに「コミットメント条項」が導入されます。

コミットメント条項の要点

  • 発注者と受注者が「適正な労務費の支払い」を相互に確約する
  • 必要に応じ、賃金の支払い実績を確認できる書類を提示する

これにより、「予算が足りないから人件費を削ってくれ」という従来の発注スタンスは、コンプライアンス違反のリスクを負うことになります。

4.文化財現場へのインパクトと課題

文化財の発掘・整理・保全は、人の技能に支えられており、建設業の制度と極めて密接に結びついています。
そのため、今回の制度改正は文化財領域にも次の変化をもたらす可能性があります。

  1. 公的基準値による不当な低価格への歯止め
    「土工」など、基準値が公表された職種については、「労務費の根拠」が公的に共有されるため、不当な低価格競争や買いたたきに対する強力な歯止めとなります。これにより、発掘調査や足場設置などにおける適切な人件費確保が容易になります。
  2. 独自の積算根拠の「妥当性」を示す必要性
    基準値が未定の「塗装」等、あるいは特殊な技能を要する「宮大工」等の領域では、事業者は既に独自の積算根拠(歩掛かりや原価計算)を持っています。
    しかし、公的な基準値がない場合、企業が持つ独自の積算根拠の妥当性を、発注者に認めさせる交渉力が必要となります。裏を返せば、この領域こそ、企業独自の技術力や特殊性を価格に反映させるために、公的基準値に代わる客観的な説明責任が問われることになります。
  3. 若手人材の定着促進と安全性の向上
    無理な低価格での発注が減り、適正人数の投入がしやすくなります。生活できる賃金水準が確保されることで、文化財分野を志す人材が増えやすくなるでしょう。

5.CPSUSとしての今後の取り組み

私たちCPSUSには、土木積算を専門としているものが在籍しており、「文化財の整理保管・活用に関わる環境の健全化」を使命としています。 法律が変わるだけでは現場は良くなりません。制度を使いこなし、実態を変えるアクションが必要です。

2025年12月の改正建設業法施行は、文化財を守る「人の手」を守るための大きな一歩です。現場で働く人・発注する自治体・民間事業者が、「適正な労務費とは何か」 を共通の言葉で話せるようになることが不可欠です。
CPSUSは、その翻訳者として役割を果たしていきます。

📚 参考文献・出典

建設業法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」等について ※改正の概要、労務費の基準に関する詳細資料

建設業法等改正の概要 

日経クロステック(2025/12/03)(全文閲覧には会員登録が必要です)

建設通信新聞(2025/12/03)